偽りの仮面 第17話


手足をもがれ、身動きの出来なくなったKMFのコックピットから姿を表したゼロの姿に、コーネリアは眉を寄せた。

「さすがのゼロも、これ以上の悪あがきは出来ないか」

そうは言ったが、やはりどこか釈然としない。
これから捕縛され、その素顔を晒されるのだ。
目を覆いたくなるような拷問を受け、死よりも辛い責め苦に正気を失い、処刑される日を今か今かと待つ、そんな未来が待っているのだ。
それなのに、そこにいるゼロは普段と変わらず凛とした姿でそこにいた。
何か策があるのか、見苦しい真似はプライドが許さないのか。
それとも、自分に利用価値があるから拷問はされないとでも思っているのか。
いや、そこまで愚かではないだろう。
嫌な予感に背筋を震わせた時、一陣の風が吹きゼロのマントが煽られた。
マントの内に隠されていた細い体が視界に収まる。
呆れるほど脆弱な体で戦場にいるとはと呆れを感じると同時に、その胸の中央にある、今まで見たこともない物体に目を奪われた。
蠢くような輝きを持ったピンクの物体。
それが指し示すものは何か。
頭に浮かんだのはただ一つの物質。
まさか、だが仮面で顔を隠し、その肌の色さえも隠していた人物。
たとえ死んでも、顔を晒すことのできない人物だとしたら?
ゼロにも家族がいるのかもしれない。
その家族を守るため、その素性を遺伝子ごと消し去る覚悟だったとしたら?
呆然と見つめていた時、ゼロはすっと手を持ち上げた。
その手にはスイッチ。
全身に電流が走ったかのような衝撃が走り、気がついたら命令を下していた。

「全機、ゼロから離れろ!!」

コーネリアからの突然の命令に一瞬戸惑ったが、皇女の命令は絶対。
KMFはゼロから距離を取ろうとした。
だが、死なばもろとも、1騎でも道連れに。
そう考えていたルルーシュは、スイッチに手をかけた。

「駄目だ!!!」

抵抗するでもなく姿を表したゼロ、そしてゼロから離れようとするKMF。
これだけの材料が手に入れば、空気が読めなければ事態も飲み込めない偽ゼロであっても、察するものはある。人間離れした速度でゼロに駆け寄ると、ゼロは「来るな!」と声を上げたが、聞くつもりなど無い。
あの中身はルルーシュなのだから、スザクが巻き込まれるような状況で・・・自爆などしないはずだ。そう信じて飛び込んだ。
押す直前だったスイッチ。
ゼロは爆破範囲内に入ってしまった偽ゼロを見て、反射的に指をどけた。
僅かな動きで悟ったスザクは、目にも留まらぬ速さでゼロに近づき、有無をいわさずその体を抱き上げた。

「ほわあぁぁぁぁぁ!?」

あまりの速さに驚きの声を上げたゼロの身体を覆っていたマントが再びめくれ上がる。その旨の内に、普段はない異物を見つけた偽ゼロは、片手でゼロを抱きかかえたままその胸元のアクセサリーらしき物を引き剥がし、遠くに投げた。
それはKMFが3騎逃げた方角。
人の腕で投げられたとは思えない距離を飛んでいくのを目にしたゼロは、迷うこと無くスイッチを押した。その瞬間、流体サクラダイトで造りだした爆薬は、広範囲に爆風と高熱を撒き散らし、KMF3騎を巻き込んで爆発した。
その爆風を背で受けながら、偽ゼロはしっかりとゼロを抱えなおすと、その場を駆け去ろうとした。
これで二人共逃げられる。
助かったと思ったのは一瞬で、そうは上手く行かなかった。

このままではゼロも偽ゼロも逃がしてしまう。ほんの少し前まで、ゼロを捕らえた功績に思いを馳せていたのに、何なんだこの状況は。しかも3騎やられた。
怒りに支配された感情のままに、兵の一人が生け捕り命令を無視し、発砲した。
動きまわる小さな標的に、KMFの銃は適さない。
だが、走り抜ける偽ゼロに当たらなかったそれは、偽ゼロに近い地面をえぐりとった。
2度、3度と撃たれた弾丸と、破片が偽ゼロとゼロめがけて飛んで来る。
腕の中のゼロを守ろうと、偽ゼロはその身を呈して守り、破片を避けていたが人間離れした偽ゼロでも、この状況を切り抜けることは出来なかった。
降り注ぐ破片が頭に当たり、ヘルメット越しに脳を揺さぶる。
その衝撃で破片を避けるための足が止まってしまった。

「がっ・・・」

破片の衝撃で、ヘルメットの下から悲鳴ともうめき声とも捕れる声が聞こえた。

「スザク!!!」

避けきれない多くの破片からせめてルルーシュを守らなければ。
腕に抱いたゼロの悲鳴を耳にしながら、偽ゼロは意識を手放した。


「そうか、偽ゼロを捕まえたか・・・いいか、仮面は外すな。顔を見てはならない。ダールトンが行くまで手を出すな」

顔を隠さなければならない人物なら、兵士たちにも見せる訳にはいかない。
仮面ありの状態を受け入れ、交渉する。
まずはそこからだ。
今までの戦闘データのどれを取ってみても、埋もれさせるには惜しい能力。
イレブンならイレブンなりの使いみちがある。
近くの部隊にいたダールトンが急ぎ駆けつけ、その身柄を確保した。
他の兵ならば好奇心から顔を見かねないが、ダールトンなら大丈夫だろう。

「ゼロは逃したが仕方がない。偽ゼロを手土産に政庁に戻るぞ」




撃った兵士は、偽ゼロを捕縛する手柄はたてましたが
その前にコーネリアの生け捕り命令を無視したことになるため
報奨なし、手柄なし、降格になりました。

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